桑原 ゆう
《うつろひの花》《二つの聲》プログラムノート
うつろひの花
《うつろひの花》は、もともとはソプラノリコーダーと笙のために書いた作品です。今回は若干の改訂を施した短縮版を、ピッコロトランペットと笙で演奏していただきます。以下は、初演時のプログラムノートです。
「リコーダーと笙の組み合わせで作曲の依頼をいただき、その音を想像したとき、笙の音はどこまでも広がる空と緩急をつけて流れる風、リコーダーの音はその空間を飛んでいく鳥たちのさえずり…というイメージを持ちました。鳥のイメージは、現代音楽のフィールドではもう使い古されたようなものだとは思うのですが、結局、その最初のイメージを払拭することはできず、それならむしろ、メシアンや他の作曲家たちにならって、鳥の鳴き声をそのまま音の素材にしようと思いました。4月の初演が予定されていたため、春の鳥といえばうぐいすだろうと、うぐいすの鳴き声を音に写し取り、それを様々に変奏しながらメロディーとしました。また、古今和歌集の『うぐいす』をふくむ和歌から『うぐいすの なく野辺ごとに きてみれば うつろふ花に 風ぞ吹きける』を選び、そのイメージで全体を作曲し、『うつろふ花に』を少し変化させてタイトルとしました。私なりの、音による『本歌取り』といった感じの作品です」
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二つの聲
《二つの聲》は、昨年フランスのロワイヨモン修道院で初演された弦楽三重奏のための《三つの聲》、先月イタリアのボッビオでの初演された十人の奏者のための《十の聲》につづく作品で、《十の聲》にあらわれる「パルス (点) の多声的な重なりとそれに伴うグリッサンド (線)」の要素にフォーカスした小品です。委嘱をいただいたときには、トランペットと笙のための、リズミカルで躍動的な作品を書こうと思い、その方向で作曲を進めていました。しかし、笙という楽器が元来持つ空間性や時間感覚に対して、書こうとしている音楽はそぐわないと感じたため、路線を変更して、笙の菅同士の干渉により生じる音のなかをゼフュロスのグリッサンドが「すべる」ようなイメージで、耳を澄まして空間を聴くことのできるような音楽にしようと試みました。タイトルで《二つの聲》といいながら、ゼフュロスも笙も、どちらのパートも多声的に書かれているので、二つの声部による音楽ではないことも重要なポイントです。
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私はいま、スイスのルツェルン音楽祭アカデミーに参加していますので、残念ながら立ち会うことはできませんが、お時間ございましたらぜひ、代わりに初演を見届けてください!