桑原 ゆう
落語鑑賞教室
先週のことですが、志ん輔師匠の母校の落語鑑賞教室で、師匠と「真景累ヶ淵」より「豊志賀の死」をやらせていただきました。昨年末のVACANT公演をもって、全段公演「真景累ヶ淵」は一通り完結したのですが、実は「豊志賀の死」を含む「其の二」は笛の方が音楽を担当されたため、淡座としてはその部分だけすっぽり抜けてしまっていました。それがちょっと心残りだったので、「豊志賀の死」に挑戦させて頂けるのはとても嬉しいことでした。
「豊志賀の死」は「真景累ヶ淵」のなかで一番有名でよく演じられている部分ですが、豊志賀と新吉、お久の三角関係の描写が中心で、あまりおどろおどろしくなっては変だし、「真景累ヶ淵」の他の部分と比べると展開が平坦で、大きな出来事もあまり無く、うまく音をつけられるかしらとちょっと心配にもなりましたが、準備をしっかりして、1回のお稽古でなんとかまとめることができました。
今回は中学生全学年、高校1、3年生と保護者の方が対象ということで、それだけの人数が入る大きなホールにヴァイオリンとチェロ2人で対抗するという、なかなか分の悪いシチュエーション。でも、そんな経験も貴重です!最初は客席の最後列から演奏する予定でしたが、音出しをしてみた結果、1階席と2階席の間の通路の両端に陣取り、中央に向けて演奏することにしました。
本番は会場の反応がとてもよく、普段落語にあまり接することはないだろう学生さんたちの心さえもがっちりとつかんでしまう皆さんの素晴らしい見せ方聴かせ方に勉強させていただきました。しかし、最後の「豊志賀の死」、入りを淡座の演奏から始め、雰囲気をつくりながら師匠が出ていらっしゃる予定でしたが、中学生、高校生特有のあのざわつきが一向に収まらない!それでも、あまり間が空いてはおかしいのでふたりは演奏を始めたのですが、まったく気付かれずにかき消され、客席後方で聴いていた私にも演奏はほとんど聴こえず、もう師匠の出ていらっしゃるきっかけになってしまい... これはまずいと舞台裏へ駆け込んだとき、ちょうど師匠は舞台に出ていらっしゃって、お喋りは止み、大きな拍手とともに、積極的に聴こうとする静かな空間が戻ってきました。出囃子が鳴って噺家が高座に現れ、噺が始まるのが落語だと学生さんたちは思っていたでしょうし、自分が中学生、高校生だったころの芸術鑑賞会を思い出すと、確かにあんな雰囲気だったし、想像力が足りなかったことを反省しました。相手が大人数過ぎたこともあり、音が敵わなかったのはちょっと不運ではありましたが、それはそれで、どんなときにも柔軟に対応できないといけないなと、とても良い勉強になりました。そして、入りは失敗してしまいましたが、その後は噺とのバランスもよく、独特の世界観をつくれたと思います。
中学生や高校生にもわかりやすい、いわゆる落語という感じの笑うポイントのつかみやすい噺でなく、ちゃんと聴いていないとストーリーが理解できないような円朝作品をあえて選び、まったく手をぬかずにじっくりと聴かせる師匠の姿を見て、やっぱり師匠はすごい、こんな方と一緒にやらせて頂けるなんて本当にすごいことだと改めて思いました。今回も貴重な機会をいただき本当にありがとうございました。
中央大学付属中学校・高等学校のホームページに、当日のレポートが掲載されています。
http://chu-fu.ed.jp/topics/?p=1718