桑原 ゆう

2017 01 Feb

《ホケトゥス風 ライムライト》編曲ノート

昨年の10、11月にVol.1「間違いの喜劇」公演を行った、シェイクスピアを朗読と音楽で表現するシリーズの第2弾「十二夜」。さいたま公演がいよいよ今週2/3(金)に迫っています。今回のメインディッシュ「十二夜」は、鹿児島の作曲家田口和行さんに作曲をお願いしましたが、私も公演全体のテーマ「語る言葉、歌う言葉、奏でる言葉」に合わせ、新作を発表します。ひとつは、役者の言葉とテノール、チェロのための《かたち、あや、あるいはすがた》です。言葉と音楽とは一卵性双生児のようなものではないだろうかという問いをベースとしながら、言葉と音楽のグラデーションでの作曲を試みました。もうひとつは編曲作品で、カナダのプログレロックバンドラッシュ(Rush)の「ライムライト」をテノールとチェロの二重奏に編曲しました。今日は、さいたま公演で初演される「ライムライト」の編曲について書きたいと思います。

 

 

「ライムライト」は、Vol.1の「アイアムザウォルラス」に引き続き、”シェイクスピア作品にまつわるポピュラー音楽枠”として編曲しました。歌詞に「お気に召すまま」第2幕第7場のジェイクイズの名台詞が引用され、バンドとしての成功を予感しながらも、頼むから放っておいてほしいと葛藤するさまが歌われています。私は今回初めてラッシュというバンドを知り、もちろん「ライムライト」も初めて聴きました。佐藤くんは編曲作品の候補を他にも数曲あげてくれましたが、その中で圧倒的に音楽的に面白く、編曲し甲斐があると思ったのがこの曲でした。

 

前回の「アイアムザウォルラス」の編曲は、サイケデリックといわれている原曲のサウンドを、チェリストふたりというごく限られた編成でどう表現するかに重きを置きました。結果的に、チェロでできる奏法のほとんどを駆使した、少しサディスティックな(?)編曲になりましたが、今回はサウンドに注目するというよりも「ライムライト」の音楽的な要素をより拡張するという方向性での編曲になりました。

この曲で特徴的なのが、拍子の頻繁な変化です。3/4拍子、4/4拍子の交代によるイントロに始まり、3/4拍子、4/4拍子の交代に時折2/4拍子の入るAメロ、3つのコードがオスティナート風に繰り返されるサビの前半は3/4拍子、後半は4/4拍子、となかなか複雑です。それでいて、音楽の流れはごく自然で、まったく小難しく聴こえないのが素晴らしいです。ということで、イントロや間奏などで、この曲ならではの変拍子のつくりを拡張した、より複雑な変拍子にして遊んでみました。Aメロやサビは、原曲に寄り添った編曲にしてあります。

さらに、複数の歌い手が交互に歌い、補完的にひとつのリズム又は旋律を編み出す「ホケトゥス」という、中世ヨーロッパ音楽で用いられた方法を意識し、古楽が専門の市川さんに歌っていただく意味も付け加えた《ホケトゥス風 ライムライト》といった仕上がりになっています。市川さんが昨日のリハーサルで、歌の部分と間奏とで頭の使い方が違う感じがして、切り替えるのが難しいとおっしゃっていました。

 

編曲の仕事は、新曲を書いているなかで、ある種の息抜きになり、楽しくて大好きです。私が編曲をするときに心がけているのは、条件と場合にもよりますが、原曲が持っているものが第一で、それを尊重しながらも自分のつくりたい音楽との接点を見つけ出し、新しい曲としてつくり直すように編曲するということです。そういう編曲をしないで私が編曲をする意味はないと思っています。原曲にまず向き合い、自分の思いつく方法のすべてをつくして何度も話しかけ、何かしらの関係性をつくろうと努力します。そうするといつか向こうから、こういう曲にしたらいいよと語りかけてくれます。

 

チェロとテノールによる《ホケトゥス風 ライムライト》は、さいたま公演、東京公演Ⅱ、東京公演Ⅲと3度演奏されますので、ぜひ聴きにいらしてください!

 

桑原作品の演奏日程は、まとめると以下のようになっています。

・2/3 19:00開演 さいたま公演

  ラッシュ / 桑原ゆう編曲: ホケトゥス風 ライムライト (2016) (チェロとテノールのための) 

・2/11 12:00開演 東京公演Ⅰ

  桑原ゆう: かたち、あや、あるいはすがた (2017) (役者の言葉、テノール、チェロのための)

・2/11 15:00開演 東京公演Ⅱ

  ホケトゥス風 ライムライト

・3/19 17:00開演 東京公演Ⅲ

  ホケトゥス風 ライムライト

  かたち、あや、あるいはすがた

 

田口さんの「十二夜」、私の「間違いの喜劇」とはまったく違うアプローチで面白いです。ご来場お待ちしています!

 

 

"げん"結び ー音楽と文学ー 

Vol.2「十二夜、あるいは、お好きなように ~Twelfth Night, or, What You Will~」

 

さいたま公演: 2/3(金) 19:00開演 @彩の国さいたま芸術劇場小ホー

 

<プログラム>

作者不詳 (詩: W.シェイクスピア)/ 桑原ゆう(編曲): おいらが小さな子供の頃

ブリテン: 無伴奏チェロ組曲 第2番 op.80

ラッシュ / 桑原ゆう(編曲): ホケトゥス風 ライムライト (初演)

サッリネン: セバスティアンナイトの為の悲歌 op.10

田口和行 (作曲) / 大石泰 (台本): 「十二夜」~テノールを伴うチェロと語り手のための~ (初演)

 

その後の公演

東京公演 Ⅰ: 2/11(土)12:00開演@井政(神田の家)

東京公演 Ⅱ: 2/11(土)15:00開演@井政(神田の家)

東京公演 Ⅲ: 3/19(日)17:00開演@安養院

 

◆ホームページ

http://genmusubi.weebly.com

 

◆チケット (全公演共通)

前売: 一般¥3,000、学生¥2,000

当日: 一般¥3,500、学生¥2,500

*さいたま公演では3歳以上中学生以下のお子様をご招待致します。

 

◆演奏

佐藤翔  / チェロ

市川泰明 / テノール (ゲスト出演)

柴田友樹 / 語り (ゲスト出演)

 

◆ご予約・お問い合わせ

“げん”結び実行委員会 

Tel: 090-3520-8534(佐藤) 

E-Mail: genmusubi.m.w.l@gmail.com