桑原 ゆう
明日再演の《Etudes Ⅳ》について
明日、2010年から2013年にかけて作曲した二十五絃箏三面のための連作、Etudesシリーズより《Etudes Ⅳ》が再演されます。こちらが初演の映像です。
先日リハーサルで聴かせていただいたところ、初演に比べてぐんと解像度が高くなったようで、音の輪郭が活き活きとしていました。それからさらに弾き込んでくださっていることと思いますので、明日の演奏がとても楽しみです。
《Etudes Ⅳ》は楽譜の書き方がちょっと変わっています。それまでのEtudesシリーズは普通に五線譜で書きましたが、この曲では、古典箏曲を記すのに用いられている縦譜を採用しました。数ページ写真を載せます。




日本語の文章と同じように縦書きで、右から左へと読んでいきます。1マスが四分音符1つ分です。数字や「斗」「乙」などの漢字が、どの絃を弾くかを表します。左手で絃を押してピッチを変える指示は「オ」「ヲ」で表されます。一般的な縦譜の書き方に加え、テンポや強弱記号を書き入れていますので、クレッシェンドやデクレッシェンドの松葉記号が、縦になっているのがご覧頂けると思います。
どのように楽譜を書くか、それは、作曲の思考の道筋に直接影響を及ぼします。なぜこの曲でこのような記譜を用いたのかは、以下にプログラムノートを載せますので、ぜひご一読ください。そして、まだチケットはあるそうですので、よかったら明日、ぜひ聴きにいらしてください!
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毎回、新しい作品を書くときには、何か新しい挑戦を自分自身に課すようにしています。作品を書いていく中で自問自答を繰り返し、自ら課した問題にどうにか答えを出してやろう、突破してやろうとするエネルギーが、音楽に強度をもたらすと考えるからです。また、そうする事でしか、演奏してくださる方、聴いてくださる方に何かを問いかけ、新しい気づきをもたらす作品をつくる事はできないと思っています。
今作《Etudes Ⅳ》での大きな挑戦は「縦譜で書く」という事でした。五線譜でなく、より古典的で箏という楽器に寄り添った記譜の方法で曲を書いてみたいと考えたのは、ある箏奏者の方に出会ったのがきっかけでした。その方は、落語に出てきそうな、まさに江戸のお箏の手習いの先生という印象で、現代音楽や西洋音楽にはあまり関わりがないようでした。「箏の曲も書きます」とお話ししたとき、「縦譜でお書きになるの?」と聞かれ、「いえ、主に五線譜です…」と答えると、その方は少しがっかりされたように見えました。その事が何だかとても気にかかり、ずっと心に引っかかり離れませんでした。やがて、きっと縦譜を通してでしか表現できない箏の音楽があるはずだ、それを少しでも身を以てわかりたい、その経験なしに箏の曲を書いていると言ってはいけないと思うようになりました。そういう経緯から、《Etudes Ⅳ》では、古典箏曲でよく用いられる手のパターンをいくつか組み合わせ、唱歌を頭の中でとなえながら縦譜で書き、それでも、古典箏曲とは違う新しい音楽の姿を描けないかという事に挑戦しました。
五線譜から音を読み取るのに慣れきっている私がまず苦労したのは、縦譜で音を記しても、それが実際に鳴る音にすぐに変換できないという事でした。それでも、五線譜で作曲してから縦譜に書き直すのではこの挑戦に意味がなくなってしまうと思い、頑なに縦譜で考える事を続けました。私なりに古典箏曲の縦譜を勉強していくと、箏の調絃というのは非常に合理的で、 それが手と密接に関わり、縦譜のフォーマットをも成り立たせている事がわかってきました。あらかじめ《Etudes Ⅳ》は1作目の《Etudes》と同じ調弦で書くと決めていましたが、数年前に自分が考えためちゃくちゃな調絃と折り合いをつけるのはなかなか大変で、ほうぼうの体で終止線を引き、なんとか形にする事ができました。縦譜で書いた事によってたくさんの発見があり、音楽を記譜するとはどういう事かを自らに問い直す機会となりました。以前、能管の唱歌をもとにフルートの作品を書いたときに、日本の音楽の譜面は、演奏した結果の音を表すのでなく、音を出す方法を記すものなのではと思ったのですが、それも改めて実感しました。
絃数の多い二十五絃箏に対して縦譜で書く事に本当に意味があるのか、それは、曲を書き終えた今も正直わからないのですが、私の書いた縦譜を同世代の演奏家たちがどう読み取るのか、それを聴くのが楽しみで仕方ありません。
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25 strings-koto Revolucion Concert Vol.10
音と映像で辿る二十五絃箏の軌跡
2016年5月28日(土)
於 調布市せんがわ劇場 (東京都調布市仙川町1丁目21-5)
開場 15:30 / 開演 16:00
料金 / 一般前売2,000円、学生前売1,500円 (当日各500円増)
演奏 / [4plus] 木村麻耶、日原暢子、佐藤亜美 (二十五絃箏)
http://www.koto-4plus.com/20160528
ご予約・お問い合わせ / http://www.koto-4plus.com/contact/contact.php