桑原 ゆう

2015 20 Sep

ビートルズをマンドリンオーケストラで!

リベルテマンドリンオーケストラより委嘱をいただき、ビートルズの《ミッシェル》を編曲しました。明日9/21(祝/月)、作曲家の田口和行さん主催の Kago-tag note #2「四季のソネット」で、橋爪皓佐さん編曲の《ノルウェーの森》、壺井一歩さん編曲の《ヘイ・ジュード》と合わせ、《Pops in Mandolin Orchestra - The Beatles I》として組曲のような形で鹿児島初演されます。先日リハーサルを聴かせていただき、なにか相談したわけでもないのに3曲合わせてちゃんとストーリーができあがっていて、とても嬉しく思いました。

今回のお話をいただいてすぐに、この中から1曲選んでくださいというビートルズ楽曲リストがメールで送られてきました。それを見て直感で、あ、《ミッシェル》にしよう!と思いました。無理のないメロディーとコード進行で純粋にいい曲だなと思えるし、《ミッシェル》を聴くといつも、なんだか懐かしいようなくすぐったいような気持ちになるのです。子供のころ最初に買ってもらった電子ピアノの自動演奏に《ミッシェル》が入っていたような記憶があり、それで、なのかもしれませんが、なにか自分をかたちづくっている心の奥底の大切な部分とつながりがあるような気がします。でも、私はビートルズの楽曲を聴こうと思って聴いたことがほぼ無く、あまりに知らなすぎるので、曲を決めるのはリスト上の曲を全部聴いてみてからにしようと思いました。私が編曲をするときに心がけているのは、場合と条件にもよりますが、もとの楽曲が持っているものが第一に大事で、それを尊重しながらも自分のつくりたい音楽との接点を見つけ出し、新しい曲として作り直すように編曲するということです。そういう編曲をしないで私が編曲をする意味はないと思っています。リストの上から順に曲を聴いていき、それができそうと閃きが得られるか、ひとつずつチェックしていきました。下の妹のあいが、4枚目のアルバムで《Here There And Everywhere》をアレンジしているので (突然宣伝! ai kuwabara trio project "Love Theme" に収録されています。) それを姉妹でやるのもいいなと思ったりもしたのですが、結局は《ミッシェル》に戻ってきました。

それからしばらく、毎日《ミッシェル》を必ず1回以上聴くようにして、編曲のアイディアが生まれるのを待ちました。いつも与えられたテーマや条件にまず向き合い、自分の思いつく方法のすべてをつくして何度も話しかけ、何かしらの関係性をつくろうと努力します。そうするといつか向こうから、こういう曲を書いたらいいよと語りかけてくれるのです。テーマや編成、テキストなどにまずは向かってみる、そういうものが与えられない作曲のときには自分で制限をつくって没入してみる、そのうち何か音のとっかかりが私を迎えてくれて、それをもとに作曲をしながらテーマや制限を超えていこうとします。

今回の編曲で真っ先に決まったことは、原曲の中にある素材だけを用い、それらの発展で全体を形づくるということです。なかでも私にとって重要だったのは原曲の前奏で、たった4小節の前奏が、この編曲においての大事な要素のほとんどを与えてくれました。特にわかりやすいのは半音階(特に下行形)の多用で、それは、前奏の半音階のクリシェから来ています。曲全体に渡って半音階を徹底的に使ってみようと思いました。そのため、和声は原曲に比べてかなり複雑で、淡く移ろっていくように進行していきます。他には例えば、ギターパートはハーモニクスを多用していますが、そのリズムもすべて原曲のギターのストロークのリズムをもとにしています。
また、歌の曲を楽器だけで再現するときには、言葉の部分を補い音楽に説得力を与えるような工夫が必要だと思っています。歌から言葉をとってしまうとその歌は半分死んでしまうのです。今回はメロディーを自分なりの解釈で再構成しました。さらにそれを対位法的に組み合わせたり、ひとつのパートがメロディーを担当するのでなく、アンサンブルが噛み合ってひとつのメロディーが出来上がっていくようにしました。さらに、音の定位がはっきりしているマンドリンの特徴を活かして、音楽が立体的に実現できるような仕掛けを多々散りばめました。旋律が四方から水流のように湧き出てくるようにしたり、伴奏が左から右へ流れて行くようにしたり、様々な工夫を施しました。

と、色々と凝りに凝って編曲をしたのですが、もともとビートルズの楽曲は扱いが難しく、原曲のメロディーがちゃんとわかるように、また、原曲の構成も崩さずに編曲をしなくてはいけないということでしたので、それらの制限と自分のやりたいこととのギリギリのラインを目指し、自分なりに新しい曲としてほぼ作曲するように編曲したつもりです。空にたくさんの点が集まったような渡り鳥の群がザーッと飛んでいく様子だったり、砂の上にできた水が流れるような模様だったり、古い映画のザラザラした質感だったり、色のないイメージの《ミッシェル》です。12/5には東京で初演されますので、今回の鹿児島初演を経てさらに細かいところをつくりあげていけそうで、とても楽しみです。

明日は私は残念ながら伺えませんが、鹿児島近辺にお住まいの皆さま、旅行などで行かれている皆さま、ぜひ初演を見届けてください。どうぞよろしくお願い致します。

 

Kago-tag note #2「四季のソネット」

 

 

■出演
鷹羽弘晃 (客演指揮)
望月豪 (マンドリン独奏)
リベルテマンドリンオーケストラ

■プログラム
A.ヴィヴァルディ (arr.安藤真裕子) : 協奏曲集《四季》より抜粋
G.エネスコ (arr.小穴雄一) : ルーマニア狂詩曲第1番
Lennon=McCartney : Pops in Mandolin Orchestra - The Beatles I[委嘱初演]
- Norwegian Wood (This Bird Has Flown) (arr.橋爪皓佐)
- Michelle (arr.桑原ゆう)
- Hey Jude (arr.壺井一歩)
壺井一歩 : マンドリンのためのソネット第5番より
- 1. ロンドンデリーの歌
田口和行 : マンドリン協奏曲《六花》

■開催概要
【日時】2015年9月21日(月祝) 13:00開場 / 13:30開演
【会場】サンエールかごしま 2F講堂
【料金】一般2,500円 / 学生1,500円 (全席自由、当日500円増)
【チケット販売】十字屋CROSS (099-239-8585)
        山形屋プレイガイド (099-227-6820)
        フォレストヒル (092-715-3828)
【主催】Liberte Kago-tag note 実行委員会
【後援】MBC南日本放送

■ご予約・お問合せ
リベルテ事務局 : info@liberte-mandolin.com
Kago-tag note 実行委員会事務局 (田口) : 090-7394-1840 / greenhorn2011@gmail.com

Facebookのイベントページからも、詳細をご覧いただけます↓
https://www.facebook.com/events/1634929600098315/

http://greenhorn2011.blog24.fc2.com/blog-entry-756.html
http://www.liberte-mandolin.com/#Concert

ちなみに、今回のリベルテマンドリンオーケストラの兄弟的存在のエスプリマンドリンオーケストラに委嘱をいただき初演していただいた、私のマンドリンオーケストラ1作目《みづかげ三章》の映像をまだちゃんとご紹介したことがなかったはずなので、リンクしておきます。

 

 

 

演奏後に舞台に出て行くのにまだまだ慣れず、なんだかぴょこぴょこしてるしちゃんと挨拶できてないしで恥ずかしいのですが、そこは目をつぶってください。今回の《ミッシェル》との共通点もあるはずです。この曲はいま改訂したくてうずうずしています。またなにか機会があったらいいなと思います。