芹澤 絵美
マヌカとカヌカ
マヌカ・ハニーの価格が高騰し始めてから、
私の中でいくつかギモンがあり、それを過去にブログにも書いてきました。
1つは、蜂はマヌカの花だけを選んで蜜を集めるわけではないので、
彼らが大好きなタンポポなどの雑草もすべて除草しなければ100%マヌカ・ハニーだと定義出来ないのでは?ということ。
そして最近新たにギモンを持ってきたのが、「カヌカ」についてです。
カヌカは、マヌカにとてもよく似た高木で、
この区別が付いている人はニュージーランド人にも少ないと思われます。
先日ヒメの散歩で公園を歩いていたときに、
実によく比較対象しやすい状態でマヌカとカヌカの木が並んでいました。

写真上、左がマヌカの木で右がカヌカの木です。
マヌカの花はカヌカよりも開花が早く、
花の大きさもカヌカの3倍以上あり、よく見るとおしべが花びらよりも短いです。

カヌカの花はこれから満開を迎える時期で、
花もとても小さく、おしべが花びらよりも目立って長いのが特徴です。

そして明らかに違うのはその樹高です。
マヌカは樹高が5メートルを超えないのに対し、
カヌカは30メートルを超えることもあります。
葉っぱも、カヌカは柔らかく、マヌカは尖っていて固いです。
マヌカは木の下の方にも葉をつけますが、
カヌカは木の上半分にしか葉をつけません。
こうして比べてみると、明らかに別の植物なのです。
マヌカ(Leptospermum scoparium)
カヌカ(Kunzea ericoides)
カヌカは1983年まで、
マヌカと同じレプトスペルムム属の木に分類されていました。
植物学者によって研究が進み分類が見直されるまで、
ずっと同じ属とされてきたのです。
ニュージーランド政府の第一次産業省は、
「マヌカ・ハニー」をニュージーランド固有の特産物とする為に、
その成分を厳密に特定し「マヌカ・ハニー」の定義を改める取り組みをしています。
その際に、カヌカの成分が入っているハニーをマヌカ・ハニーの対象外にするのかしないのか、それが議論になっているのです。
カヌカに含まれる抗菌物質は過酸化水素由来であり抗菌力が弱く、
マヌカに多く含まれる抗菌力の高いメチルグリオキサールの含有量もわずかなのです。
ニュージーランドでは、
カヌカもマヌカも通称で「マヌカ」と長らく呼称してきた歴史があり、
したがって、現段階で売られているマヌカ・ハニーには、
カヌカ・ハニーが混在しているものがほとんどということになります。
メチルグリオキサール(MGあるいはMGO)の含有量が高ければ、
マヌカの木の方が多い場所からハニーが集められているということになりますが、
そこにはわずかながらもカヌカの木由来のハニーも混ざっています。
もしも、カヌカ由来のハニーが混ざっているものを「マヌカ・ハニー」と言えないと法で定められた場合、マヌカ・ハニーは極端に減少し、価格は更に高騰する可能性があります。
この結論は2016年までに出されると見込まれていましたが、
第一産業省のホームページを見ると、2017年8月の時点では「結論を出すにはまだ時間を要する」と書かれていました。
更に別の問題点は、
マヌカ(Leptospermum scoparium)は、
実はニュージーランドの固有種ではないということです。
もともとはオーストラリア原産で、ニューサウスウェールズ州、ビクトリア州、タスマニア州に分布していたのですが、かなり昔にニュージーランドに持ち込まれ、オーストラリアよりもニュージーランドのほうが繁殖に適していた結果ニュージーランド全土に広がったということです。
よって「Leptospermum scoparium」を栽培し、そこから取れたハチミツは、
マヌカ・ハニーと同じ効力を持つものとなります。
中国など、知的財産権を侵す強力な生産国に対抗する為に、
「マヌカ・ハニー」という言葉の使用をニュージーランド原産のものに限る必要があるのですが、もっと先の未来を見ると、これからこの産業に参入する国は、広大な土地を確保し、抗菌力の強い「レプトスペルムム属」だけを植林し、先に書いた他の花々が混在しないように徹底管理すれば、カヌカ・ハニーが混在しているニュージーランドの通称「マヌカ・ハニー」よりもより完璧な抗菌力の高いハチミツを生産することが可能です。
情報伝達の早い時代ですので、
広告宣伝で「レプトスペルムム・ハニー」があっというまに「マヌカ・ハニー」の座を奪うことでしょう。
なんでものんびりしているニュージーランド。
マヌカ・ハニーのパンドラの箱を開けてしまった感じですが、
なにせ、レプトスペルムム属の繁殖にとても適しているという土地柄を生かし、
植林しなおすなど、対応が遅れないようにして産業をぜひ守ってもらいたいです。