小島 健輔

2019 08 Jul

ガラスの天井が迫るEOスーツ

     
 紳士スーツは長期縮小カテゴリーであると同時にまた景気循環カテゴリーでもあり、12年以降は落ち止まって購入単価も回復傾向にあったが、昨年秋口頃から減速感が広がり始め、今年2月以降は急失速している。景気の後退を反映したものである一方、ビジネスシーンのカジュアル化が一段と加速していることも要因と見られる。
 そんな中でマーケットが拡大し、業界が最後の望みを繋いでいるのがEO(イージーオーダー)スーツだが、その拡大には「ガラスの天井」があるようだ。
 近年伸びているEOスーツは「CAD・POスーツ」と言うべきで、『既製服ベースの「パターンオーダー」をパーソナル採寸データに基づいてCADがパターンとマーキングを自動作成する「CADオーダー」にIT進化させたもの』と定義すべきだ。数千万円単位の投資ができるなら、CADマーキングは即CAM裁断に落とせる。
 EOスーツが業界のブームと言っても、採寸から納品まで3週も4週もかかるのは「CADオーダー」になっておらず、熟練職人が一点づつパターンを引いて収率にこだわりながらマーキングしていく職人技に依存しているからだろう。EOスーツの縫製自体はセル生産なら一両日で済むが、マーキングをそんな手仕事に頼っていては受注が重なれば詰まってしまう。「カシヤマ・ザ・スマートテーラー」が大連の直営工場で生産して採寸から納品まで1週間で済ませられるのはCADCAMのマジックなのだ。
 それはともあれ、今時の忙しいビジネスマンがミリ単位で採寸してピッタリ作ったEOスーツを必要としているだろうか。
 オシャレにこだわるエグゼクティブや若いビジネスマンはともかく、大部分の額に汗して働くビジネスマンはイージーケアかつ動きやすい(ストレッチ性かリラックスフィット)アクティブスーツに流れるのは必然だ。アクティブスーツも超お手頃価格の実用品からオシャレな織り柄物(プリントだけど)までバラエティが広がって来ているから、紳士服専門店からも百貨店からも多数の顧客がシフトしていくと思われる。
 業界ではちょっとしたブームになってスーツ市場の2割を超えたとまで言われるEOスーツ市場だが、急拡大して来た市場に飽和感が広がりつつある。もっとはっきり言えば「ガラスの天井」に迫っているのではないか。杞憂であってくれれば良いのだが・・・・・
     
     
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