小島 健輔
エクスクルーシブバイイングの勧め
SPA的オリジナル開発には幾つもの手法があって生産プロセスやDB連携まで突っ込めばきりがないが、「バイイング」の手法は基本的に三段階しかない。ここで「バイイング」と定義するのは数入れ発注して買い取るもので、委託や消化、VMIは想定していない。
もっとも初歩的というか零細なのが「セレクトバイイング」で、展示会にせよサンプル見分けにせよ、ブランド側の企画からバイヤーが選択して数入れ発注する。販売力があれば生産ロット発注の「別注バイイング」が可能で、オリジナルな意匠を加えたりオリジナルなフィットにすることができる。差別化の意味もあるが、輸入代理店の「ジャパンフィット」別注のようにローカル対応したり、品番買い切りによって店間移動や売価変更の裁量権を獲得する目的が大きい。
百貨店の「直輸入品」の多くはセレクトバイイングに留まるから「ジャパンフィット」になっておらず、身頃と丈がアンバランスだったりする。輸入代理店の「ジャパンフィット」別注ならフィットの違和感は少ないが、販売力が別注のミニマムロットを割り込めば継続が難しくなる。
もっとも政策的な力技が「エクスクルーシブバイイング」で、ブランドの企画を品番丸ごと独占発注してしまう。全世界分は無理だしローカルフィット別注の必要もあるから、そのリテイラーが展開するローカル(国)限定、ブランド側の求めるローカルロットが大きすぎる場合やライバルチエーンとの取り合いになる場合は地域限定でエクスクルーシブする。
地域を限定する場合、米国では伝統的に東部/西部/中北部/中南部の4リージョナル、あるいはもう少し細分化した8ブロック(NewEngland/Mideast/GreatLakes/Plains/SouthEast/SouthWest/RockyMountain/FarWest)が使われるようだ。我が国なら8ブロック(北海道/東北/関東/東海/関西/北陸/中四国/九州)になるのだろうか。
エクスクルーシブバイイングした品番は地域内で競合する小売業者に流れないから、地域内では店間移動も売価変更も自在で、効率的な販売消化が図れる。セントラルバイイングの米国デパートチェーンでは常套手段で、コールズは大衆的なNBのベーシック品番に集中してエクスクルーシブし週末のキックオフを仕掛けて量販している。
ゆえに、ブランドの展示会にはバイヤーが朝一番に駆けつけて魅力ある品番の独占を競うことになる。仕舞いかけの時間に悠然と現れて数入れもせず、夜の接待に流れる我が国百貨店のバイヤーとは根本的に真剣さが異なるようだ。
店舗販売では地域を限定できてもECでは壁を立てられないから、エクスクルーシブバイイングのルールもオムニコマース時代の今日では崩れがちだ。だからこそブランド側はECでの販売価格に神経を尖らせざるを得ない。おそらくはエクスクルーシブバイイングにも越境ECや値引き販売の規制条件が付くのだろうが、そんな取引慣習を知っていれば「ZOZOARIGATO」など強行する愚は犯さなかったのではないか。「知見」とはそんな岐路を分けるものなのだろう。
我が国の百貨店はセントラルバイイングの体制も多店舗間在庫運用のスキルもないからエクスクルーシブバイイングは困難だが、大手セレクトチェーンなら存分に仕掛けられる。悲しむべきはSPA的オリジナル開発に注力してブランド商品はエージェントのサプライに依存するケースが多いことで、欧米の展示会やオフィスを訪れてエクスクルーシブを競う戦略を欠いている。
大手セレクトチェーンがエクスクルーシブバイイングに目覚め、ジャパン社で直営展開するようなスーパーブランドを除けば欧米ブランドの流通が細り続けていく現実に歯止めを掛けてくれることを望みたい。
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