小島 健輔

2019 10 May

現代キモノはつまらない

     

 十連休の後半、コレド室町で催された「東京キモノショー2019」を覗いてみた。ショーと言ってもキモノ業界の展示即売やキモノ愛好家の内輪イベントで「東京ファッションウィーク」に比べれば格段にマイナーなものだが、型にはまった現代キモノの閉塞感にうんざりしていたので、来場する素人愛好家の創意な装いに期待して出かけてみた。
 残念ながら期待したような新味は皆無で、展示会場に並んだ装い提案のトルソーはなぜかいかり肩に近いものが多く(絶対おかしい!)、前身頃を深く合わせてカッチリ着付け半襟にまで芯を入れるという締め上げぶりで、和装というより武装に近い印象を受けた。
 会場に集う関係者や来客の着こなしも含め、色柄で遊ぶだけで、帯板やタオル、幾重もの紐縛りで乳房も腰のくびれも直線的に補正してしまう現代キモノのセオリーを出るものがなかったが、一人だけ目を惹いたお姉さんがいた。お姉さんと言っても江戸風には婀娜な大年増(30過ぎ?)になるが、帯板も補正のタオルも入れず見頃の合わせも浅いのに、緩く衣紋を抜いて肩から胸元まで抜け感があり、乳房や腰の丸みをそれとなく感じさせる町娘風のお侠なこなしだった。生地もモダンな大柄の藍染めで帯は吉弥結びだったから、浴衣の装いだったのだろう。
 その姿は竹久夢二が描いたお葉のようでもあり、蕗谷虹児がアールデコに描いた可憐な少女のようでもあるが、永井荷風の「つゆのあとさき」に登場するアプレな女給、君江が待合で帯紐を解くシーンを思い出させた。
 戦前までの着付けでは帯紐を解けば一瞬にしてキモノは脱げるが、何重にも紐で締め上げた現代キモノの装いでは帯紐を解いてもキモノは容易に脱げない。『良いではないか!』のお座敷遊びも現代キモノでは成り立たない訳で、何本もの紐を解いたところで帯板や補正タオルがボトボトと落ちて来ては興醒めしてしまう。
 つまらなかった「東京キモノショー」の暇つぶしにしょうもない夢想に走った連休のいっときだったが、キモノにせよ洋服にせよ、着る側の創意遊意を損なってはマーケットは萎縮してしまう。「クリエイション」は作る側が押し付けるものではなく、使い手の「クリエイション」を喚起するものであって欲しい。
     
     
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