小島 健輔

2018 22 Feb

“伊勢丹”化する人気ECモール

 拡大が続くアパレルECだが、流通コストも在庫効率も店舗販売を凌駕するはずが、ここへ来て『こんなはずではなかった』という異変が生じている。平均15%という宅配料金の値上げに加え、人手不足によるDC運営経費、果ては段ボールまでが高騰してEC事業の収益性が急速に悪化する中、最大経費たるECモールの手数料率が高騰しているのだ。
 人気ファッションECモールの売上手数料率は初期の20%台前半から近年は35%に上昇したと言われるが、直近の運営経費高騰を反映してか新規の出店者に対しては40〜45%という声も聞かれる。新規出店には200〜300万円の出店料(システムのリンケージ費用など)も必要だから、売上規模が小さいと売上の半分近くが差っ引かれてしまう。そんな現状を業界関係者は『伊勢丹化してる』と言う。集客力を背景に高い歩率を要求するという比喩だが、そんな批判が出て来る背景にはECモールとの取引が百貨店の「消化仕入れ」と大差ない事もあるようだ。
 ECモールには楽天やヤフーのような「場所貸し型」、ECフロントを代行して宅配伝票データを提供する「マーケットプレイス型」、在庫を預かって出荷まで全プロセスを代行する「フルフィル型」があるが、人気のファッションECモールは在庫を預かる「フルフィル型」が大半だ。『在庫を預かる』というのは店舗流通では「売上仕入れ」であり、フルフィル代行の手数料率は「消化仕入れ」の歩率と同様に受け取られている。
 ECモールに在庫を預ければ自社EC向けや店舗向けと在庫が分散し、データ引き当てはリンケージしても物理的には別だから、引き当てるとDC間の二重物流が発生する。自社ECや店舗向けの在庫をECモールに引き当てるのはともかく、逆は時間がかかって非現実的だと聞く。何だか百貨店間の在庫振り替えに難渋した昔日のアパレルの話(今でも大して変わらないが)のようだ。
 ファッションECモールは皆、同様なビジネスモデルで近似した手数料率だから、ECモール間のコスト競争原理はまったく働いていない。ECモールがコストをかけて集客力を競う一方、フルフィルが高コスト化し手数料率が高騰する実情は、バブル崩壊後の百貨店を彷彿させる。92〜00年で百貨店の步率は10ポイント強も高騰したが、それが00年(定期借家契約導入)以降のアパレルの駅ビル/SCシフトと百貨店の凋落を招いた事は記憶に遠くない。
 「小売の輪」の競争法則は店舗販売のみならずECにも通ずる。高コスト低利便の事業者やビジネスモデルが低コスト高利便の事業者やビジネスモデルに駆逐されていくという必然の理だが、人気ECモール事業者は前ばかり見て背後に迫る競争原理が見えていないのかも知れない。それは直近に参入したECモール事業者とて同様で、先行人気モールのビジネスモデルのみならず手数料率まで横並びの姿勢では競争原理は働かず、テナント出店するアパレル事業者にとっては販路と在庫が分散するだけでメリットが疑わしい。まさにECモールの百貨店化現象(在庫分散と高コスト化)と言わざるを得ない。『伊勢丹化している』という出店者の発言は、そんな失望感も反映しているのだろう。
 これでは百貨店流通同様、非効率化して遠からず「小売の輪」に飲み込まれていくのは必定だ。競争優位を仕掛けるには在庫を預かる「フルフィル型」ではなく低コストで在庫が分散しない「マーケットプレイス型」であるのは必然で、実質手数料率も商業施設の課金率水準(売上対比実質15〜18%)に収斂していく。店舗流通に取って代わるECが店舗流通より高コストであるはずもない。競争環境の急変はもうカウントダウンに入っているのではないか。
※3月28日に開催するSPAC月例会「最新オムニチャネル&D2C総研究」では最新のEC情勢を検証して抜本的な対応を提ずる予定です。

     
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