小島 健輔

2018 07 Dec

ユニクロはモンサントになるのか?

 ちょっと前、WWDジャパンの『気がつけばみんな「ユニクロ」を着ている 平成に起きたアパレル革命』と銘打った記事が『それでも私は「ユニクロ」を着ない』などと物議を醸したが、期せずして農業界では種苗法改正による自家採種禁止で『気がつけばみんな「モンサント」を蒔いている』になっちゃうのではと不安の声が広がっている。
 農産品の効率的な生産と流通にはF1種による「種子更新」が不可欠だが、種苗法改正によって自家採種が禁止されればFI種の世界的覇権企業「モンサント」による種子供給支配が加速し、地域に根ざした固定種が消えていくのではと危惧されている。種苗法改正によっても自家採種が全く禁止されるわけではないし、雄性不稔(植物のインポ)交配で作られたF1種の採食で人間の無精子化が進むという疑惑も科学的根拠がないが、グローバルな寡占企業によってローカルな固定種が駆逐されていくという懸念は否めない。
 平成の衣料消費を革命した「ユニクロ」や「ZARA」「H&M」などグローバルなSPAが各国の「固定種」(ローカルブランド)たちを駆逐していったのは紛れもない事実だが、それを合理的として是認するのかローカルな多様性が損なわれたとして問題視するのかは、それぞれの価値観による。
 低コストな大量生産が途上国での低賃金労働を強い、大量の廃棄につながるという指摘もある。本来、装い文化はローカル&テロワールなもので、グローバル一律な大量供給は需給のミスマッチを広げて売れ残り在庫の大量廃棄を招きやすい。消費者の選択肢としても、あるいは装い文化としても、ローカルな多様性は必要不可欠だ。『「ユニクロ」は「モンサント」になるのか?』という問いはそんな文脈だと受け取ってもらいたい。
 スーパーマーケットの棚に並ぶ規格化されたF1種ばかりで良いのか、味わいや鮮度、地域の農耕風土にこだわれば産直の市で固定種を買って味わうという選択肢も残されるべきだろう。その意味で、種苗法改正の一方で食品流通のローカル化(地産地消)が進み、ファッションも10年近く続いたグローバル化からローカル回帰に転じたのは幸いと言うべきかもしれない。
 ローカル回帰は衣料品や食品のみならず政治や経済でも急進しており、ローカルなエゴが世界を対立の構図に追いやっているのは憂うべきことだが、こと食品と衣料品に関してはローカルなエゴが広がっても美味しく楽しくなるだけで誰も困らない。グローバルSPAによる一律的供給より地域やストリートに根ざしたローカルブランドが広がる方が装う楽しさも盛り上がるのではないか。
 30年間(60シーズン)以上の長期にわたって作り続けてきた、ティーンズからシニアまでローカルストリートからグローバルモードまで緻密に網羅したレディス/メンズの客層ボードだが、使ってくれるクライアントが広がらず、膨大な作業量に見合わなくなったので、今シーズン限りで止めようと思う。世代やライフスタイルに根ざしたローカルマーケティングの基本となる優れものだが、一方通行のクリエイションや効率的標準化を信奉して顧客直視のローカルマーケティングを卑下するギョーカイの体質には合わなかったのだろう。

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