小島 健輔
伊勢丹メンズVS.阪急メンズ東京
阪急メンズ東京が3月15日、新宿伊勢丹メンズ館が翌16日と相次いでリニューアルしたが、両者がリニューアルした事情は対極的なものだ。
03年の開業時には『世界が舞台の、男たちへ』をテーマにジェットセッターなビジネスマンをターゲットとした阪急メンズ東京だが、今回のリニューアルでは『クリエイティブコンシャスな男たちの冒険基地』をテーマにIT関連などスマートクリエイティブ層、自営業など成功ライフスタイリスト層、スペシャリストなど個性クリエイティブ層にターゲットを転じた。その分、ビジネスクロージングの売場が圧縮され、ストリートブランドやヴィンテージアイテム、靴を中核とした服飾雑貨が拡充され、レコードやインテリア、アートなど男たちの趣味の世界が展開されている。
大きく変わったのは5F「シューズ」と7F「ヴィンテージ&リバイバル」だけで、4F「オーセンティック」は旧5F「モダントラディショナルスタイル」から追いやられたクロージングブランドが詰め込まれており、従来のビジネス客も捨てず新たなクリエイティブコンシャス客も取り込もうという二正面作戦には苦しいものがある。
伊勢丹メンズのリニューアルは阪急メンズのような路線転換はなく、顧客向けの案内でも『継承と進化』と謳っている。これまでの「ラグジュアリー」「クリエイティブ」を深耕するとともに「パーソナライズ」「リアル」を加え、デジタル時代の消費スタイルにアップデートするものだ。
近年の変化に対応してブランドを移動しフロア編成を明確化しただけで大きく変えたという印象はなく、ブランドの入れ替えも10%ほどにとどまる。プロモーションスペースを広げ、25ヶ所のコミュニケーションスペースを設置するなど、リアル・コミュニケーションを強化したインパクトの方が大きい。変化のリスクは「10%」に抑えて着実な積み増しを狙ったという印象だ。
阪急メンズ東京が「変化」、伊勢丹メンズが「継承と進化」を選択したのは、両者の業績格差による必然だった。18年3月期で伊勢丹メンズが450億円強を売り上げたのに対し、阪急メンズ東京は144億円弱と三倍以上の開きがある。売場面積は前者が1万平米、後者が1万1000平米と大差ないから、売上の格差は販売効率の格差とニアイコールだ。
伊勢丹メンズが実績を背景に『継承と進化』で確実な売上の積み増しを狙ったのに対し、阪急メンズ東京はリスク覚悟で突破口を切り開かざるを得なかった。伊勢丹メンズは手堅く目論見通りと見るが、阪急メンズ東京は二正面作戦の難しさで目標の170億円には届かないと見る。
リニューアル事情は違っても変化の方向は大差ない。それはビジネス客向けクロージングブランドの圧縮、ラグジュアリー/デザイナーズ/クリエイターズの拡充、ストリートやヴィンテージの取り込みであり、狭間となったファクトリーブランドやコンテンポラリーブランドは絞り込まれている。マーケットが縮小しているわけではないのに業界事情で売場が次々と縮小されたり無くなっていけば顧客は “ブランド難民”となって彷徨い、販路を失ったブランドはやがてマーケットから消えていく。
阪急メンズ東京は多数の“ブランド難民”を生んでいるファクトリーブランドを圧縮すべきではなかった。『男たちの冒険基地』は楽しそうだが、家賃の嵩む有楽町マリオンでやるには高くつくお遊びにすぎる。その過ちは売上数字という通信簿に現れるのではないか。