小島 健輔
ワコールの「スマート&トライ」は凄い
カジュアルのアスレジャー化や通勤着のゆるイージーケア化で女性の下着も大きく変わっているようで、米国ではセクシーな「Victoria’s Secret」が人気を失ってヘルシーな「aerie」に人気が移り、日本でもマルキュー系のランジェリーブランドが低迷してストッキングも釣瓶落としに売れなくなったが、ブラジャーのサイズをSMLで選ぶ女性が増えているという報道にはさすがに耳を疑った。スポーツブラならともかく、多少なりとも補正効果を期待するブラならSMLという選択はないだろうと思っていたら、ワコールがジャストな回答を出して来た。
ZOZOSUITの大空振りに見るように、体型も物性も異なる人体とパターンも物性も多様な衣服のマッチングは画像解析AIでも限界があるが、人体と服の間に意図して隙間を作るアパレルと違って人体に直接フィットする下着のマッチングは数段難しい。寸法だけでなく質量による引力や張力まで考慮しなければならないからだ。IT関係の方はそんなことまで配慮が及ばないだろうが、長年にわたって日本女性の体型データを蓄積し、試着・接客経験を積み上げて来たワコールはさすがに違った。
ワコールが開発した「smart & try」はわずか5秒で150万スポットを計測する3Dスキャナーによる立体採寸と蓄積された試着・接客データに基づいてワコールのブラ製品からAIが最適の商品・サイズを推奨するもので、以下の4点が画期的と思われる。
1)試着ストレスの軽減
顧客は採寸ルームで試着用のブラを着けて販売員の目に触れることなく一人で採寸できるから、裸体を人目に晒すストレスから解放される。女性同士といえども体型にコンプレックスを抱える人も多くストレスは否めないから、試着に消極的だった顧客にも利用が広がると期待される。
2)立体形状/体積を計測しての推奨精度の高さ
バストの形状のみならず体積まで掴んで最適のブラを推奨する精度の高さは、これまでのアパレル3D採寸とは次元を画する。補正機能を持つブラのワイヤ形状は高度に立体的に設計されているから、マッチングには胴体の断面形状、バストからウエストにかけての角度、バスト底面の幅、バスト左右間の距離が必要で、それに見合う立体採寸の精度が必要だった。
3)データ蓄積と形状変化を学習するAI
多数の採寸データとブラ製品のマッチング、顧客の形状変化を学習してAIの推奨精度が高まるから、継続的に利用する顧客が広がり、製品開発にもフィードバックできる。
4)試着に伴う製品ロスの解消
ブラの試着には汚れなどに伴う製品ロスが伴い、試着用に全型の全サイズを用意すればサンプルのロスも嵩む。その多くを回避できるメリットは小さくない。ECでブラの試着を容認しているケースはきわめて限られるが、「smart & try」を活用すればショールーミング販売も拡大できる。
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実用性が疑わしいIT採寸やAIレコメンドとは次元を画すワコールの「smart & try」はアパレルにも十分に応用できる優れもので、早くもアパレル業界から引き合いがあるそうだ。5月30日には東急プラザ表参道原宿4階に体験ショップが開設されるが、5月12日まで表参道ヒルズの西館一階のイベントスペース(表参道面)で体験できるから、ご興味のある方は覗いてみてはどうか。ただし女性限定で要予約だそうだ。