小島 健輔
ファッションシステムは破綻したか
SNSが情報を主導する今日、ファッションシステムは破綻したという見方もあるが、その変遷を振り返れば今日の状況をより正確に理解できるのではないか。
ファッションシステムは作り手・売り手の業界側が買い手・使い手の消費者側との情報格差を増幅して付加価値を高めようという“情報の非対称性”マーケティングであり、ファッション業界とメディア業界が結託して消費者を錯覚させるトリックと言っても差し支えないだろう。
ファッションシステムは20年代フランスのオートクチュール組合とメディア(当時はファッション誌と新聞)の連携に発して米国にも広がり、戦後の我が国では60年代は合繊メーカーがTVや新聞と組んでのカラーキャンペーン、70年代はブティックとファッション誌(「アンアン」「ノンノ」など)が組んでのトレンドキャンペーン、80年代はDCブランドとファッション誌がランウェイ軸に仕掛けるブランディングキャンペーンと発展し、ブランド軸のファッションシステムが完成された。
バブル崩壊後の90年代は、ランウェイから発信する高コストなブランドキャンペーンから読者モデルやカリスマ販売員を軸にファッション誌とブランドが組むお手頃な仕組みに移行したが、08年の三大事変(リーマンショック/ファストファッション上陸/iPhone3G発売)を契機にブロガーやユーチューバーなどインフルエンサーを軸にブランドと消費者がSNSで交流するD2C型ファッションシステムに移行。ネットメディアの台頭やECの急成長、アプリの進化も相まって次第に高コストなファッション誌がスポイルされ、今日に至っている。
振り返れば、ファッションシステムのメディアは60年代のTVなどマスメディアから70年代にファッション誌に代わり、80年代のブランディング以降はランウェイ発信、90年代は読モ/カリ販発信と代わってもファッション誌が主役の座を保ったが、08年の事変を契機にSNSとスマホに代わっていったと総括されよう。
それをもってファッションシステムが破綻したと見るのか、メディアがSNSとスマホに代わっただけと見るかだが、私は前者に旗をあげたい。なぜなら業界側と消費者側の情報格差の増幅というファッションシステムの本質は90年代の読モ/カリ販台頭で崩れ始め、08年以降のインフルエンサー(消費者代表)とSNSの台頭で情報の非対称性が崩れたからだ。
今時、ブランド側と連んだ特権的メディアやジャーナリストが情報を独占する、あるいは一般消費者より先に情報を手にするのはネットデモクラシーに反するし、インサイダー行為でさえある。ネットデモクラシーが定着した今日、消費者主権のフェアな情報発信とSNSによる直接交信がブランドへの好意を育てるとすれば、ファションシステムはその役割を終えたと見るべきだろう。