宮田 理江

2018 26 Jun

EC普及の「次」はどうなる? 『店は生き残れるか』(小島健輔著)を読んで

アパレルウェブの人気ブログでもおなじみの小島健輔先生(小島ファッションマーケティング代表取締役)の著書が2018年7月1日に発売されます。タイトルは『店は生き残れるか』(商業界刊)です。

ニューヨーク・五番街で1914年から営業を続けてきた老舗百貨店「ロード&テイラー」の旗艦店が営業を終えると発表されました。日本でも百貨店の閉店が相次いでいて、「店舗」が減る流れにあります。背景にあるのは、電子商取引(EC)の広がりや消費者マインドの変化です。本書はこうした状況を分析し、経営者が選ぶべき方策を提示しています。

タイトルが示す通り、強い危機感を示しています。ECが一段と勢いを増す半面、実店舗は存在感が薄れてきました。ECの売り上げがさらに伸びれば、アパレル企業や流通企業もECに傾き、実店舗はますます空洞化するおそれがあります。「ECでは注文できるのに、実店舗では在庫がない」といった現象が起こり得るわけです。

実店舗とECの両方を運営するのは、企業や働き手にとって負担が大きく、かえって販売の妨げになりかねません。著者は在庫の配分や店頭での対応といった、具体的な動きに基づいて、かつては「理想のビジネス」と語られがちだったオムニチャンネルに対しても、店頭とECのバランス管理が難しく、バックヤードの仕事が増える点でも課題が多いと述べています。その現実をとらえたうえで、ある程度、ECに振り切ってしまう「ショールーミング化」すら、選択肢に挙げています。

副題に「ポストECのニューリテールを探る」とあるように、本書ではECが浸透し、売り上げの2割を超えるようになった先を見据えています。買い回りの面倒、時間効率の悪さ、在庫のばらつきなど、様々な利便性の面で、実店舗はECに見劣りします。価格や返品、心理的ストレスといった点でもECのほうを好む消費者が多くなってきました。それらの課題を踏まえて、「店舗」の行く末をシビアに見極めています。

ただ、コンサルティング実績の豊かな著者は軽々しく小売業の未来を悲観しているわけではありません。むしろ、ECの急成長を前提にしながらも、実店舗が再び輝くための道筋を厳しくもあたたかいまなざしで提案しています。

実際に店頭での販売経験が長かった者としては、効率重視のファッション販売が絶対の「正解」だとは考えにくいところがあります。もちろん、流通プロセスや経営効率の無駄を省くのは当然の取り組みですが、ヒューマンな接客まで「無駄」と位置付けて省いてしまうのは考えものです。

むしろ、ECの仕組みに、接客や対面販売の遺伝子を組み込んでいく取り組みが消費者に支持される可能性を感じます。一方で、ECの利便性を、実店舗の現場に持ち込むアプローチも考えられます。試着や在庫チェックなどの点で、既に実店舗をバージョンアップする試みは始まっています。

小売業、実店舗の発展余地を、多面的から照らし出してていて、あらためて著者のファッションビジネスへの熱い愛情を感じました。論点は小売業全般や商業施設開発・運営、流通企業経営など、幅広い業種・職種にわたっているので、ファッションビジネス以外の読み手にとっても貴重なヒントが得られるのではと感じました。「ポストEC」に向けた道筋を、本書から読み取ってほしいと思います。

『店は生き残れるか ポストECのニューリテールを探る』
 

小島健輔先生のブログ
http://blog.apparel-web.com/theme/consultant/author/kojima

 

Written By Rie Miyata

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