婦人服と較べて紳士服の世界は変化が緩慢だと思われがちだが、業界の体質が保守的だからこそマーケットとの乖離が断層的“革命”を招く事がある。今、紳士服業界で炸裂しているドミノ倒し的変化は、かつての「ピーコック革命」や「ビジカジ革命」「ノームコア＆アスレジャー革命」に匹敵するもので、長らく停滞傾向が続いていた紳士既製服業界を崩壊させかねない大変事になりつつある。
　今春以降、紳士カジュアルウエアの販売は復調が顕著だが、紳士ビジネスウエアの販売には翳りが広がっている。その要因は今春から本格化した二つの“革命”だ。

■アクティブスーツ革命

　ひとつはスポーツウエアメーカーやワークウエアベンチャーが火をつけた「アクティブスーツ」で、営業マン／営業ガールからサービススタッフまでイージーケア＆パッカブルな「アクティブスーツ」に急シフトする煽りで、低価格ビジネススーツの需要が激減している。当初は３万円台が主流だったが、需要が爆発するにつれカジュアルチェーンまで参入して２万円を切るセットアップも登場している。合繊ジャージのトラックスーツ的工程でイージーにも作れるから、来春夏には１２,８００〜１９,８００円で氾濫するに違いない。
　その煽りで紳士服チェーンの低価格既製スーツ／セットアップが打撃を受けており、例年にない販売不振が聞かれる。煽りはジャケットコーディネイトの“カジビジ”にも及んでおり、イージーケアとコーディネイト不要の気楽さで「アクティブスーツ」に乗り換える顧客も広がっているようだ。

■短納期ＥＯ革命

　もうひとつがイージーオーダー納期の革命的短縮で、「カシヤマ・ザ・スマートテーラー」は採寸からお届けまで一週間という短納期を実現して爆発的に売上を伸ばし、オンワード紳士既製服のＥＯ比率を一変させる勢いだ。業界全体でも、ちょっと前までビジネススーツの数％に過ぎなかったＥＯ比率が急ピッチに上昇しており、数年で既製服を逆転しかねない勢いだ。ＩＴの活用や生産工程の再構築で納期が劇的に短縮され、既製服を修理加工するより速く安くなったからだが、既製ビジネススーツの品揃えが消化不振で選択に耐えないほど細ったことも背景として指摘される。
　元より紳士既製スーツは半年以上前からの計画生産が主流で、在庫が年に二回転するかしないかという非効率な世界だから、受注先行の短納期ＥＯという無在庫Ｄ２Ｃビジネスは“超”が付く効率化革命で、業界側からもＥＯシフトが加速するのは必然だ。
　この前門の「アクティブスーツ」、後門の「短納期ＥＯ」という二つの爆発的奔流にどう対応するかで紳士服業界の勢力図は一変するに違いない。その奔流は紳士服のみならず婦人服にも及ぶのではないか。