久保 雅裕

2019 14 Aug

不寛容な時代に、この映画を

©MIRA FILM

ブルーノートは世界最長のジャズ専門レーベルで、ドイツ系移民のアルフレッド・ライオンとフランシス・ウルフによって1939年にニューヨークにて誕生した。最初はブギウギ・ピアノの2枚のEPによってそのスタートを切ったが、50年代にはフォトグラファーでもあるウルフ、レコーディング・エンジニアのルディ・ヴァン・ゲルダー、デザイナーのリード・マイルズによる分業制が確立し、ジャズ・サウンド、アートワーク・デザインすべてが揃った素晴らしい作品を次々に送り出してきた。ジャズ界のみならず、ミュージック・ビジネス・シーン全体に与えた影響も計り知れない。このレーベルのドキュメンタリー映画『ブルーノート・レコード ジャズを超えて』が9月6日よりBunkamura ル・シネマほか全国順次公開される。

さて詳細はUSEN『encoremode』の記事に譲るとして、本題に入ろう。

世界的にナショナリズムや民族主義の台頭による不寛容が広がっている昨今、この映画が持つ意味は大きい。それはナチスドイツの迫害から逃れてきたユダヤ人の2人(ライオンとウルフ)が黒人差別の強烈な米国内にあって、偏見なくこのレーベルを立ち上げ、自由というキーワードの基、人種に関係なく音楽という共通項に依拠して、人間の可能性を高めてきたという、まさに今日叫ばれている「ダイバーシティ」を実現してきたという事実がある。

自身が「迫害と差別を受けてきた被差別者であったから」という境遇が影響しているのは間違いないだろう。今でこそ、当たり前のように人種、民族、宗教、門地などによる差別が許されないものであるという普遍的な人類の価値を広く認められるようになってはいるものの、トランプ大統領の誕生や欧州各国でのネオナショナリスト政党の躍進、ヘイトクライムの増加や国内においてもヘイトスピーチの横行など不寛容さは日に日に増しているような気がする。反動という言葉は、物理学的にも社会学的にも、常に振り子運動の如く、現れるものだ。だが人類が常に進歩させてきた文化的価値は、一進一退はありつつも、長い目で見れば必ず良い方向に行くと信じたい。現代社会の抱えるあらゆる差別的現象に対する警鐘としても、この映画の持つ役割は小さくないと言える。

BLUE NOTE CLUB https://bluenote-club.com/