桑原 ゆう

2016 16 Jan

スパイラル声明公演を終えて

スパイラル声明公演が終わって、1週間が経とうとしています。第2夜も事故は多々ありましたが、第1夜に比べ音楽的にまとまったものになったと思います。私にとって、とても大切で嬉しくて楽しくてしょうがない2日間でした。その翌日はあまりに気持ちが高ぶっていて、何かしようとするとそのたびに涙が出てくるものですから、自分で自分自身が使いものにならなくて、それに自分で呆れました。

5年前、あのスパイラルガーデンでスパイラル聲明シリーズを見て大感激し、あの空間で新作を書くことが大事な夢のひとつになりました。お稽古や法要で勉強させていただきながら、もしいつかその時が来たらどんな作品を書こう、あんなのかなこんなのかなと考えていたら、スパイラルシリーズの最後で作品を書かせていただけることになりました。出来上がってみたらあまりにも難しい曲で、その楽譜を初めて見たお坊さまがたの目を点にしてしまったり、ちょっと量が多すぎて部分的にカットしないといけなかったり、色々ありながらも、お坊さまがたがとても熱心にお稽古してくださって、何とか形にすることができました。お稽古しているうちにだんだん面白さがわかってきた、会場で実際にやってみて曲の意図が初めて理解できたなどと言っていただいて、私の頭のなかにあったものがだんだんと共有されて作品が形になっていく過程、さらにそれが聴いてくださる方々にも共有されていく喜び、これが作品をつくる醍醐味で、このために作曲を続けているんだなと改めて思ったりしました。

ナバホの詩と曼荼羅供という土台を作ってくださったのは演出の田村先生です。この土台があったからこその作品でした。私はスパイラルの螺旋空間、ナバホの創生神話と詩の言葉、曼荼羅、そして声明でやることの意味の全てを結びつけることをとにかく目指して作曲しました。新作と古典の関係性、新作部分の中の構成、また、音の要素の細部まで、ナバホの創生神話とそれに基づく砂絵の儀式をとにかく学び、それにならい、今回のテーマである螺旋と曼荼羅に意味付けることを徹底的にやりました。
ネイティブアメリカンの儀式については、詩を読み込んだり、神話や砂絵の意味について調べて勉強したり、音源をできる限り聴いたりはしましたが、やはり実際に儀式を見たりその場に行ったりしたことはないので、一生懸命思い出すように思い浮かべ、想像上の儀式を声明で翻訳するようにしました。ナバホの詩と古典を違和感なく行き来することにはかなり注意を払いました。それから、曼荼羅の形式の中に自然で音楽的な流れを作ることにもこだわりました。空間配置については、ナバホの風の動きと曼荼羅の動きが同じだと気がついたことによって、説得力がもたらされました。行道もそれによって多層的な意味を持って成り立ちました。
特に聴いていただいた方から反応が大きかったのは、声が少しずつ重なりながらクロマティックに音程の上がっていく部分です。これは位置関係を変えて、繰り返し出てきます。あの部分には「風のうず」という名前がつけられていて、天台宗の古典のユリ上げという旋律系を組み合わせることによって成立しています。少しずつ音のずれていく様子を聞かせながら、クロマティックな動きで螺旋を描く方法、しかも、声明の古典的な音づかいのなかでそれを成り立たせる方法はないだろうかと考えていて、この方法でできるかもと気づいたときには、あまりの大発見に、私すごい!と自分で思ってしまったくらいです。

今回やっと地に足のついた作品を書くことができたようで、なんだかやっと、作曲家になれたという実感があります。導いてくださった先生方、お坊さま方、舞台をつくってくださったみなさま、公演を聴いてくださったみなさま、そして、音楽を始めてからこれまで、お世話になってきたたくさんの方々に感謝の気持ちでいっぱいです。

私が書きたいのは祈りの音楽なんだなと、2日間の演奏を聴いていて改めてわかりました。演者が聴衆のために音楽をするのでなく、無心、あるいは何かに唱えるために音楽をする、それが祈りだと思うのですが、聴衆はそれに同調して祈るように音楽に参加します。そういうことの自然とできる音楽を作れたらと思います。
音と言葉の試みを続けつつ、今後もっと考えていきたいのは、そこで得たものをいわゆるクラシックの編成の作品にどのように生かすかということです。もしいつかそれに答えをちゃんと出せたら、日本人として西洋音楽をつくる意味がわかるような気がします。私の曲は今まで、特に構成面で力がとても弱く、それを苦手意識として持っていたのですが、落語や声明など日本の芸能の成り立っていくさまを体験してきたことの蓄積から、この1年で急にいろんなことが見えてきて、それは最近の作曲に反映されています。これからもずっと勉強させていただいて、自分のすべきこと、書くべき音楽について考えていきたいと思います。また日々の作曲をコツコツと頑張ります。本当にありがとうございました。

スパイラル声明公演の作曲については2つのブログを書きました。
作曲の詳細: http://apalog.com/yukuwabara/archive/249
声明の楽譜について: http://apalog.com/yukuwabara/archive/251
ぜひ読んでみてください。


 


スパイラル聲明コンサートシリーズvol.24 「千年の聲」
螺旋曼荼羅海会


日時: 2016年1月9日(土)、10日(日) どちらも20:30開演 (20:00開場)
会場: スパイラルガーデン (青山スパイラル1F)
料金: 前売4,300円 / 当日4,500円 (全席自由・入場整理番号付・税込)

『螺旋曼荼羅海会』
・法螺貝、古典声明 (云何唄、散華、対揚)
・「風の歌」「夜の歌」作曲: 桑原ゆう
出演: 声明の会・千年の聲 (迦陵頻伽聲明研究会と七聲会による)
構成・演出: 田村博巳
https://www.spiral.co.jp/e_schedule/detail_1725.html

◆迦陵頻伽聲明研究会 (真言宗)
新井弘順、平井和成、大平稔雄、川城孝道、斎藤説成、小路耕徳、
塚越秀成、塚田康憲、田中康寛、沼尻憲尚、戸部憲海、孤島泰凡、
多田康雄、青木亮敬、新井弘賢、中山宥義、堀内明大
◆七聲会 (天台宗)
末廣正栄、室生述成、玉田法信、杉山幸雄、鈴木亮仁、豊田良栄、
宇佐見孝昭、髙栁亮伯、小野常寛

 

 

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旧ブログ "桑原ゆうの文化的お洒落生活のすすめ"はこちら (現在少しずつ記事を移行中です。)