桑原 ゆう

2016 10 Jan

スパイラル声明公演の作曲について2

スパイラル声明公演第1夜、事故はいくつかありましたが、なんとか無事に終えることができました。お坊さまがたがとっても悔しがっておられたので、今夜はもっともっと素晴らしい舞台になる予感がします。昨晩の公演後、スコアをどのように書いているかに興味を持ってくださった方がたくさんいらっしゃったので、声明の楽譜について少し書いてみたいと思います。

古典の譜、声明の楽譜は博士といいますが、このようになっています。(画像を載せて問題があったら、お坊さまがた教えてください!) これは今回の公演内でも唄われる真言宗豊山派の対揚です。

 

 

文字の左にある線や点が博士です。線の向きが音の高低を表しています。以前孤島先生に教えていただいたのですが、博士の線が太く記されるのは、さまざまな種類の声が合わさっていることを意味しているのだそうです。
こちらは天台宗の対揚です。

 

 

天台宗の本には回旋譜も載っています。五線譜ばかり読んできた私にはこちらのほうがとっつきやすいです。

 

 

ただやはり、唄い継がれて伝わってきたものなので、細かいところは譜にあらわされません。実際に聴かないとわからないことがたくさんあります。特に譜に明確に表されていないのはリズムと音の長さです。大まかに、長くや短くなど、わかるように書かれているものもあったり、節の決まったパターンがあってそれによって大体決まってきたりしますが、唄う方によっても違います。そこが面白いところでもあります。

ただ、今回は、普通ユニゾンを基本とするのが声明だとわかってはいるのですが、作品のある部分において、かなり細かく節を組み合わせたアンサンブルをしてみたい(読経でケチャをする!みたいなイメージでもありました)という構想もあり、時間軸の表せる楽譜を書く必要がありました。古典の節のつくりを分析し、自分なりに理解するために採譜を重ね、徐々にフォーマットを決めていきました。

 

 


そして、私の新作部分はこのような楽譜に落ち着きました。

 

 

 


見にくいですが、グレーの点々のグラフ用紙をつくり、芯の太さの違う2本のシャープペンを使って線から書き込んでいます。点と点の間1つ分が1拍という考え方で音の長さとリズムを示しました。音程も調も明確に書いてありますが、声明では正確な音高を出すことに意味はなく、相対的な音高で唄っていけばいいし、お坊さまがたはそういう音感を鍛えられているので、それに対応できるようにしました。
講式風の唱えの部分は、古典の書き方にならっています。


 

 

 

 

 

 

こんな普段見慣れない楽譜が40数ページあったわけで、それに加えて古典もあったので、お坊さまがたは本当に大変だったと思いますが、毎回熱心に、そしてとても楽しくお稽古をしてくださって、形にすることができました。

そういえば、ひとつ前のブログには書ききれなかったのですが、今回は真言宗と天台宗の混合グループによる公演なので、その宗派の声明の違いの面白さも活かした作品にすべきだと思いました。
真言宗の節は割とテンポが速め、ユリ(トリルのようなもの)も比較的素早いものが多く、全体に音の輪郭がはっきりとしていて「男節」と言われます。天台宗の節はテンポが遅め、ゆるやかで弧を描くような形をしています。ユリもゆっくりとして音の移り変わりの間隔が広く、更に特徴的なのが、塩梅といって音の始めと終わりに引っ掛けたり引き伸ばしたりする音がつくことで、これがかなり印象的です。天台宗の節回しは真言宗に対して「女節」と言われています。
実はナバホの砂絵では、イメージの描かれる方位によって男と女の特徴が施され、向かい合うもの同士が同じ性別になります。それを踏まえ、四方に分かれるセクション(ひとつ前のブログに示した「夜の歌」A2、A3にあたる部分)は、向かい合う東と西が真言宗の節を中心に、南と北は天台宗の節を中心に、と、宗派の違いがテキストの意味とも繋がりを持つように書いてみました。また、作品の全編にわたって、真言宗と天台宗それぞれの節回しの特徴を活かしつつ組み合わせたり、その両方の特徴の混じったような節にしたり、色々と工夫して作曲しました。

ひとつ前のブログには作品の作曲について詳しく書きましたので、ぜひご一読ください。

昨日より今日の方が席に余裕があるはずで、当日券も出るようです。スパイラルのあの空間のための作品です。空間自体が螺旋のパワーを持っているような場所で、その場で聴いていただかないといけない作品です。ぜひ聴いてください!どうぞよろしくお願いいたします。


 

スパイラル聲明コンサートシリーズvol.24 「千年の聲」
螺旋曼荼羅海会

日時: 2016年1月9日(土)、10日(日) どちらも20:30開演 (20:00開場)
会場: スパイラルガーデン (青山スパイラル1F)
料金: 前売4,300円 / 当日4,500円 (全席自由・入場整理番号付・税込)

『螺旋曼荼羅海会』
・法螺貝、古典声明 (云何唄、散華、対揚)
・「風の歌」「夜の歌」作曲: 桑原ゆう
出演: 声明の会・千年の聲 (迦陵頻伽聲明研究会と七聲会による)
構成・演出: 田村博巳
作曲: 桑原ゆう

www.spiral.co.jp/e_schedule/detail_1725.html

◆迦陵頻伽聲明研究会 (真言宗)
新井弘順、平井和成、大平稔雄、川城孝道、斎藤説成、小路耕徳、
塚越秀成、塚田康憲、田中康寛、沼尻憲尚、戸部憲海、孤島泰凡、
多田康雄、青木亮敬、新井弘賢、中山宥義、堀内明大
◆七聲会 (天台宗)
末廣正栄、室生述成、玉田法信、杉山幸雄、鈴木亮仁、豊田良栄、
宇佐見孝昭、髙栁亮伯、小野常寛

 

 

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旧ブログ "桑原ゆうの文化的お洒落生活のすすめ"はこちら (現在少しずつ記事を移行中です。)