北村 禎宏

2020 06 Jul

変貌するサプライチェーン

 今にして思えば、卸型のビジネスモデルからSPAへのイノベーションは中範囲の変革に過ぎなかった。ここにきて、モノの作り方と売り方の根本的見直しが迫られている。まさにグランドセオリーレベルの大改革が必須という状況だ。

 ワールドの新社長、鈴木信輝氏は「時計の針が3倍のスピードで回り、少し先と思っていたものがいきなり目の前に来た」と述べる。三倍速どころか、それは瞬間移動をもってして突如目の前に現れたという感触は、多くの人々が感じているだろう。

 24年までに受注生産を8割にすると宣言して、ライブ配信による受注を試みているのは靴のクロシェだ。地球がきれいになるというトップの思いには共感するところ大だ。

 過剰生産、大量廃棄の負のスパイラルは何年も前から指摘されてきた。ピンク本と呼ばれる「誰がアパレルを殺すのか」は2017年の出版だ。それでも大きな慣性をともなう運動に抗って大きく舵を切ることは容易ではなかった。そこに新型コロナが有無を言わさず引き金を引いた。もはや待ったなしの状況だと言える。

 ビッグデータの充実とAIの進化により需要予測の精度は今後とも飛躍的に向上することが見込まれる。しかしながら、過去および現在の販売実績データを根拠にしたロジックは、あくまでも過去のビジネスモデルの延長線上にある予測しかもたらしてくれない。

 売り方が大きく変わり、買い方も大きく変わろうとしている現在、需要予測に基づく見込み生産は一度立ち止まって断ち切らざるを得ない。セールの在り方、セール期におけるプロパー販売も年々じわじわとは変わってきていたが、この春夏で決着がついたかに見える。

 売れ残りはアウトレットや専用サイトを通じて入手することが定着した現代において、プロパー売り場でのセールは、お客様から求められてもいないし、ブランドや店舗の価値を棄損する自爆行為であったと強く反省しなければならない。

 リアル店舗はサロン型のコミュニティーの場に、情報提供や受発注はオンラインで、在庫は論理的にも物理的にも一元管理の下で極小化する。受注生産を基本として、お客様には待ってもらうことが当たり前になる。比較的付加価値の高い高感度アパレルはそのように変貌していくと考えられる。

 難しいのは大量見込み生産が合理的に成立しうる実用型アパレルとの線引きだ。実用型アパレルと高感度アパレルの間にキャズムがあるわけでなく、ブランドも価格帯も連続して連なっている。ユニクロが前者の代表で、インターナショナルスーパーブランドが後者に属することは疑いようもないが、国内で百貨店やSCに展開している多くのブランドは、その中間地帯に属している。

 明確な線引きと色分けをしないまま座していても死を待つだけだ。一億総中流は大昔の話しになり、較差は広がり続ける一方だ。消費の二極化も加速度的に進むものと考えられる。自ブランドの現在地をどちらに見定めで、ビジネスモデルをどのように見極められるか。アパレル業界総SPAの時代は終わった。インダストリー型でいくのか、アトリエ型でいくのか二者択一しかない。