北村 禎宏

2019 16 May

ベーシックインカム

 ベーシックインカム。何度か目にして耳にする機会はあったが、今回ばかりはずっしりと腹落ちさせられた。
2017年の新書大賞「人工知能と経済の未来」(井上智洋)によって。

 人工知能に関しては、レイ・カーツワイルの「シンギュラリティは近い」に言及したことがある。経済の未来については、「人口減少経済の新しい公式」(松谷明彦)を紹介した。人としての生きざまとの関わりでは、本川達雄の「生物学的文明論」「長生きが地球を滅ぼす」など。

 カーツワイル氏は2045年にシンギュラリティが実現して、コンピューターの秒あたり命令数が全地球の人類の情報処理能力の総和を超えるという。松谷氏は新たに享受する余暇時間を活用した豊かな社会と人生をと示唆する。本川氏は、化石燃料をガンガン消費してヒトの寿命をはるかに超えて人間の寿命を延ばし続けることにアンチ・テーゼを投げかける。3349万円の白血病治療薬に保険適用が決定されたのは昨日のことだ。

 井上氏は、2030年ごろに出現するであろう汎用人工知能が経済システムをどのように変貌させて、経済成長や雇用がどのような影響を受けるのかという問いに持論を展開する。

 2045年ごろまでには純粋機械化経済が実現していて、賃金労働需要は1000万人程度(現在は6000万人)に減少する可能性があるという。現在の賃労働の大半はAIを頭脳として搭載したロボットに代替されるのだ。2014年にオックスフォード大のフレイ&オズボーンが「雇用の未来」で著した消滅する可能性の高い職業は衝撃的に受け止めた方も少なくないだろう。技術的可能性を社会とそれを構成する人々がどのように導入するのかしないのか。多様な未来のオプションが私たちの賢明(もしくは暗愚)な選択を待っている。

 現在の機械化経済は一定の労働力のインプットを必要条件としていることから、少子高齢化に突入した我が国では経済成長どころか停滞は余儀なくされ、0.1%~-0.1%の間をうろうろするのが関の山だ。ところが純粋機械化経済においては人間の労働力という制約条件がないので、我が国においても、約5%の経済成長率上昇路線もありえるという。ただし、GAFAやBATHに美味しいところを寡占されてしまった場合にはこの限りではない。

 いずれにしてもそこでクローズアップされてくるのがベーシックインカムだ。いわば子供手当+大人手当のようなもので、収入の有無や多寡とは無関係に全国民に一律の額を支給する制度だ。マクロ経済学者の立場から、国がやるべきことと民間企業が担うべきことや財政的資産も平易に説明されているのでとてもわかりやすい。失言暴言に対するマニュアルを作っている場合ではない。