北村 禎宏

2020 13 Jan

問題と課題

 ロジカルシンキングが当たり前のっビジネス基礎スキルとしてすっかり定着したいま、問題解決スキルに取り組む企業が増えてきている。なかでも会社をあげて熱心で、かつ支店をあげて真正面から取り組む人々には頭が下がる思いがある。

 第一に「問題の定義(What)」、第二に「問題の所在の特定(Where)」、第三に「根本原因の究明(Why)」、そして最後に「対策の立案(How)」という手順を丁寧かつ厳密にたどっていくのが問題解決の王道である。

 しかしながら、私たちにはまったく逆の順番で発想したり手をつけてしまいかねない宿命がある。「How思考の落とし穴(Howのつまみ食い)」は、常に私たちにつきまとう。その上、「Whyの先取り」も大好きなのが私たちの性だ。

 それには生物学的な理由がある。脳を使うと腹が減って餓死するリスクが高くなるので、私たちは脳を使わない意思決定システムが最初に発動するようプログラムされている。認知心理学や行動経済学でいうところのいわゆる“システム1”である。体重の2%ほどしかない脳は一日の消費エネルギーのおよそ20%を消費するエネルギー大食い臓器なのだ。

 だからできるだけ脳を使わない思い付きによるHowのアイディア出しが大好きなのだ。いまでも地球上には食うに困っている人々が少なくない。人類の歴史はまさに飢餓との闘いだったといえる。ちなみにあと二つは感染症と戦争だった。

 また、先入観と固定観念は私たちを天敵から守って現在に至っている。したがって経験則に基づく決めつけ、思い込みも私たちの得意技だ。犯人は早期に特定されるに越したことはないし、ましてや一刻も早く自分はシロであると安心もしたい。このことがWhyの先取りを促進してしまう。

 加えてMECEを駆使してWhereの試行錯誤をすることがとっても難しい。感度の高い切り口にはそう簡単に到達できないからだ。その上、WhereとWhyの境目はどこかで悩み始めるとキリがない。用いる言葉の定義や意味が曖昧だと足腰がグダグダの問題解決になってしまう。

 問題はイシューであり、課題はタスクと訳すと区別がつきやすいが、それらを厳密に使いわている人も少なければ、ケースも少ない。ことほど左様に的確な問題解決のステップをたどるには多くのハードルがあるが、果敢にチャレンジする企業や組織、そして高いモチベーションで真剣に取り組む人々が、当該企業と業界のみならず、明日の日本をクリエイトしていくと考えると、おもわず力が入る。