北村 禎宏

2020 06 Jan

揺り戻し

私たちは振り子の揺り戻しを繰り返しながら時を刻んでいる。

 年末年始に耳に残ったのは、一部のCVSを含む小売業の元日休業の報道だ。CVSは文字通り7時‐11時の営業でスタートをその切った。「開いててよかった!」という当時のCMのフレーズはドリフターズのギャグにも引用されていた。

 それが、いつの間にか365日24時間が当たり前になった。24時間を通じて人の動きが絶えない都心部のみならずだ。40年ほど前の地方の商店街は夜の8時を過ぎれば大方の店舗はシャッターを閉じシンと静まり返っていた。百貨店も正月は休業で、確か週一日もしくは隔週、月一の休業日が設定されていたと記憶している。営業時間も夕方6:30までだった。小売業の休みを前提にして、買い置きや作り置きを通じて社会は成立していた。

 人口が増え続けている限りは、営業時間に比例して売上が増加する可能性はある。ただし、利益は別の関数になることに注意が必要だ。その人口が減少に転じて久しい。出生数が90万人を切るというのも衝撃的なニュースだった。

 需要者が減り始めたいま、営業時間と客数が比例する可能性すら大きく崩れつつあると考えなければならないだろう。しかも365日24時間営業はECの十八番だ。盛んに耳にする「モノからコトへ」も揺り戻しだ。バブル華やかかりし80年代に多くの人々がモノの取得に走り回るなか、バブル崩壊の足音が聞こえ始めたころから一部の先見者が言い出して、あっと言う間に皆が騒ぐようになった。

 それが、SCおよびアウトレット業態の完成と普及にともないいつのまにか皆が再びモノに走ってしまった。ECモールの発展がさらに輪をかけてモノは急速に消費者の間を駆けまわっていった。その結果、欲しいものは全て買い尽くした、欲しいものがないと多くの人々が口を揃えるようになった。

 営業時間の短縮は受け入れられつつある私たちであるが、その次に売上の縮小を需要することができるようになるには高いハードルがあるだろう。利益はしばらく維持もしくは増加することができても、いずれはその縮小も甘受しなければならないときは必ずやってくる。ただし利益を享受する分母である人口がそれ以上に減少していればひとりあたりの豊かさをキープすることは可能だ。

 地球も氷河期と間氷期の間で揺れ動いている。私たちは束の間の比較的温暖な時期を過ごしている。既に動き始めた振り戻しがどのように進展していくのか。新たな振り戻しの兆しがどのようなところに表れてくるのか。新しい年が動き始める。