繊維ニュース 編集部ブログ

2017 14 Dec

木糸の可能性

 【大阪本社】写真は「木糸(もくいと)」を織り上げたストール。木糸の原料に使ったのは、東日本大震災の津波被害からたった一本だけ残ったことで全国的に有名になった「奇跡の一本松」だ。

 木糸とは、森林保全のために間引いたスギやヒノキの間伐材、建物を取り壊した際の廃材などを再利用し、糸にしたもの。まずは集めた木材を細かく粉砕し小片にする。これを巨大な釜に入れ、繊維を蒸解。和紙の原料となるセルロースを抽出する。セルロースからパルプを作り、抄紙機でパルプを均一に伸ばし、和紙の原紙を作る。その後、和紙を1~4㍉の幅に細かく裁断し、スパイラル状に巻き取り撚糸にする。これが木糸である。

 写真のストールはニューヨークのカーネギーホールで開かれた「コカリナ(木で作ったオカリナ)」のチャリティーコンサートで着用され、話題を呼んだ。木糸プロジェクトの中心人物である和紙の布(大阪府阪南市)の阿部正登社長によれば、口コミで木糸織物の存在は徐々に広がりを見せており、全国の寺社や山林管理者から間伐材や廃材の再利用の依頼が入るようになってきたとのこと。奇跡の一本松の木くずもまだかなり残っており、東京オリンピックまでに第二、第三のプロジェクトも予定されているという。

 綿花や石油などあらゆる繊維製品の原料の大半は輸入だが、木糸の原料である木は日本にたくさんあり、原料からの純国産繊維製品が実現できる。国土の約7割を森林が占め、間伐材の処理にも困る日本が、木糸に着目しない理由が見当たらない。(武)