小島 健輔

2018 17 May

試着販売の社割購入はもう限界だ

 不人気に異分野の活況も加わってアパレルの販売員不足が深刻化しているが、本質的課題を放置したままロープレコンテストなどで誤摩化して来たツケは大きい。アパレルの販売員不足の要因は、低報酬と立ちっ放しの長時間勤務に加え、スキル評価が曖昧でキャリアアップが限定されること、試着販売用衣服の社割購入負担が重いことが挙げられる。
 販売員のスキルは「接客テクニック」と捉えられがちでロープレコンテストの弊害も大きいが、店舗労働が販売消化という成果に繋がるものと捉えるなら、1)品出し・補充・在庫管理から再編集・陳列演出まで付加価値マテハン業務(これが本当のVMDです!)、2)顧客の購買ニーズを掴んで商品を推奨し購買決定までサポートする接客業務、3)顧客の体型や着こなしと商品のパターンや物性を摺り合わせるフィッティング業務、4)精算と包装のクロージング業務、の4業務から成ると見るべきだ。店長ともなれば、これに5)レイバーコントロールと勤怠・意欲管理というマネジメント業務も加わる。これらのスキルをそれぞれに評価すべきで、ばっくり「接客」と捉えられては堪らない。愛想良く接客するのは苦手でも、フィッティングやVMDの達人もいるはずだ。
 それはさておき、販売員の生計を圧迫して採用難の一因となっているのが試着販売衣服の社割購入負担だ。
 社員割引制度自体は昔からあって、呉服業界やアパレル業界では販売ノルマの達成を迫られた販売員が大量購入するという「自爆買い」が問題となったこともあったが、ノルマはなくても毎月、最低限は新作を購入して試着販売しないとアパレルの販売員として機能しないのが実情だ。
 毎月2セットぐらいは必要だが、お手頃なブランドでも2セットを揃えれば定価で2〜3万円、高額なブランドでは10万円を軽く超えてしまう。社割の割引率はお手頃価格のアパレルチェーンで2〜3割、セレクトショップで4〜6割、ブランドの直営店では5〜8割で、高額になるほど割引率も高くなる傾向が見られるが、販売員の給与では限界がある。
 販売員の年俸はお手頃価格チェーンで270〜300万円、高額ブランドでもせいぜい360万円、店長クラスでも400万円程度だから、14ヶ月割とすれば月々の手取りは前者で16〜17万円、後者でも20〜21万円になる。そこから前者で1万5000円〜2万円、後者で4〜5万円も社割購入で差し引かれてしまえば生活は相当に苦しい。
 外資ラグジュアリーブランドは給与水準もひとまわり高く、制服の支給や新作の貸与が定着して販売員が自腹で購入する負担はないから、どうしても販売員志望者が集中してしまう。国内ブランドとて社割購入から支給や貸与に切り替えないと採用難は解消出来ず、社割購入という業界の慣習も変らざるを得ないようだ。

     
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